2010年02月01日

夢追い人 1

ようこそじゅん屋へ



琵琶湖水系に棲息する大鯰を釣ることは

私にとって特別な想いがあり

他魚種にはない心構えを持って水辺に立つ。



大きさを示す数字の部分も大切だが、

琵琶湖の神秘である1尾との出会い方に重きを置く。

それは場所であったり、自然条件、釣り方など、

その時その瞬間を忘れられないものにしたい。

だからいつも釣行前は1尾との出会い方を想い描くのだ。


私にとって大鯰とは全力で挑まなければ釣れない魚。

もちろんそれでも釣れないときがあり、

これだけ通っても無理なのか・・・

今日釣れなければ当分釣りをしない、

そう心に決めて臨んだ釣行でも釣れないのが大鯰だ。


釣れない理由の多くはルアーの良し悪しではないけれど

出会える確立が低い相手だけに使用するルアーは

実績を積んだルアーを選択する場合が多い。


よほどなんらかの成果を達成した後にできる

心の余裕がなければ新たなる冒険なんてできない。


ましてや自らの手で削った実績のないルアーなんかを

自信を持って投げ続けられるだろうか・・・


様々な魚種を相手にし、少しずつ経験を積み重ねれば

いつかそんな時が来るのだろうか

“自作プラグで大鯰を釣る”

それこそが自分の中に秘めていた究極に位置する挑戦であった。




<ドンキホーテ>

今から十数年前のこと

愛読していたAnglingという

ルアー・フライをメインにした雑誌に

目を驚かすような興味深い記事があった。


ドンキホーテという名のクラブの方達と

ヒロ内藤氏が琵琶湖大鯰を釣っていたのだ。





因みにこの記事の内容に関しては、

2009年フィッシングショー大阪でヒロ内藤氏とお会いした際に

たっぷりお聞かせ頂けた。

ラスト5投と決めた4投目に喰ってきたこと、

撮影時にフックが手に刺さって流血していたこと、

十数年の時を超えた話題にヒロ内藤氏も驚きと喜び、

そして私も感動でした。


余談ですが、

ヒロ内藤氏が「本当はメーター級を釣りたかった・・・」

そうこぼした時、

ケータイに保存していた強烈な画像をお見せすると

えらく感動され、逆に握手を求められてしまった。

タイムリーに児島玲子さんと握手したばかりだったのに

ヒロ内藤氏のごつい手でアノ感触が掻き消されてしまったなどという

余計な話は私の心の中にソッとしまっておこう。




さてこのドンキホーテというクラブは当時で結成20周年とあり、

現在も活動されているのかわからないが

神戸をベースにするルアーフィッシング愛好家の集まりだそうだ。


後に知ったことであるが、なんと大阪の釣友ガラ悪い氏はその昔、

ドンキホーテの方達と現場で知り合ったそうで、

その時に彼らが開拓した道を教わり、

それは現在私達に受け継がれている。

もっとも年に数回使用する程度なので道なき道になっているが、

それでも特別な想いがそこにはある。


なんとも釣りの世界は広いようで狭いものである。

またこの縁というものが、まことに不思議であり

人との繋がりは大切なんだと思わされる。




<夢を追う>


記事を読み進むと、やはりただの釣りクラブではなさそうである。

ドンキホーテの牽引役である方が77歳で、

ルアーアングラーでもありハンター(猟師)でもある。

バスも大鯰も自作ルアーしか使わないこだわりがあり、

写真で紹介されている自作ルアーは一生掛かっても

自分には作れないだろう・・・と溜息が出るほどの美しさで、

これほどまでに完成度の高いルアーなら大鯰も釣れるはずだ

すごい方達なんだと尊敬の念を抱いた。

(諸問題があるやも知れず、アップで紹介できないのが残念です)



いつか自分もハンドメイドルアーで大鯰を釣ることを夢見てきたが

それは手の届かない所に位置するもの

~Cry for the moon~ 

なのかもしれない。




<夢を形に>


私のフライ仲間に北陸の本流でサクラマスをストイックに狙う釣友がいる。

彼は言う

「ただ釣れるだけじゃダメなんだ」

この川、この場所、この流量で

あの流れの中にこのフライを流して・・・

もっと簡単に釣れる場所はあるんだけど、

自分の想い描いたストーリーでサクラマスを釣りたいらしい。


私は正直なところ彼の考えが理解できず

何十回通ってもボーズが続く釣り方に疑問を抱いた。

しかし、だ。

自分も大鯰を狙うにあたり、かなりの拘りがあったことに気付く。

この場所、この流れ・・・ここで喰わせたい。

理解できないなんて言ったけれど、自分もそうだったな。


最初はどんなでもいいから釣ることだけが楽しかったけれど

年数を重ねるうちに考えも変わってきた。

ならば自分の釣り方に合うルアーを作ろう。

きっとこの“流れ(考え)”で作ることこそが自然な成り行きであり

今までただハンドメイドルアーで釣りたいと願っていたことは

まだまだ考えが浅く、その領域に到達できていなかったんだと思う。



そしてルアーを作るにあたってプライドを懸けた強い想いがあった。

それは大鯰釣りをきっかけに知り合った

切磋琢磨できる滋賀の釣友には、私の渾身の作を使ってほしかった。

でもまずは結果を出して、さらに実績を積み重ねて

作った本人が使ってくれと勧めるのではなく、

「そのルアーを使わせてくれ!」と言わせたかった。

大鯰に認められ、本物の実力を持つ氏にも認めさせる

本気のルアーを。





頭の中の形をそのまま紙に写す

何センチのミノーを作る・・・ではなく

イメージが大きさを決め、結果的に135ミリに。

今後量産する予定もないので

設計図を残すことなく感性に委ねて作る。



材質はヒノキ

ホームセンターで購入できる安価なもの。



単なる板から形が生まれる瞬間



ナイフは国産メーカーの

「折る刃」から社名になったというオルファ製。

安価だけど使いやすく替刃もできて文句なし。





リビングでルアーを削りつつ、

子供達の前で鉛筆削りパフォーマンス。

これくらいできなアカンぞと言えば

「シャーペンやし」

小生意気な小娘どもめ。




<魂>

材質をヒノキにしたのは単純に強度を求めた結果で
(バルサ材と比較)

ヒノキは桧風呂にされる位だから水にも強いはず。

そしてなんといってもハードウッドならではの

削り工程で叩き込まれる魂。

何百回とナイフを動かし削っていると

自分の持つ感性が当初のデッサンとは違う

さらに理想の形に仕上げてしまう。




単なる板切れだったのがルアーの形になっていく楽しさ。

黙々とナイフを動かしているときは様々な情景を

思い浮かべているので、自然と魂が宿るんだと思う。



重心がどこにあるか鉛筆を使って調べる

重心がわかったならば、そこへウエイトを仕込む。

今回ウエイトに使用したのは

環境面を考慮してタングステン製をチョイス。




高負荷を想定すれば当然貫通式ワイヤーとなり、

さらにワイヤーが開かないようワイヤーロック。

ルアーが破壊されて魚のクチにフックを残したくないがための策。




なんとなくの思いつきで

熱収縮チューブを被せてドライヤーの熱風で収縮させてダブルロック。





ボディに彫った溝と位置を合わせながら

微妙なラインを作っていく。

テール部が通常のミノーとは違った形で

見た目は最悪だが、ルアーを泳ぐ層と姿勢、

そこに大鯰の捕食スタイルを考えればこうなり、

クチ以外にフックが刺さらないようにとの思いも込めて。





貫通ワイヤーの製作は、板切れに釘を打った治具(じぐ)を作り

一般的なプライヤーと、

車の内張りを外す工具を改造したものを使用。





もっと良い方法があると思うが

現時点で思いついた最善の方法




悪くはない・・・かな





セルロースで十数回ディッピング(ドブ漬け)した後、

リップの取り付け溝をノコ刃で切り込みを入れる。

リップの角度は全てが決まる失敗が許されない最重要ポイントだが、

ここも感覚で一発勝負。


写真を撮り忘れましたが、

リップの形状は6タイプを用意し

仮付けしてスイムテストした結果で選びました。

さすがにルアーの動きと泳層だけは妥協できません。

動きは派手すぎず、泳層は水面直下。

加えてルアーのシルエットの相乗効果もあり

アバウトな表現ですが、これがとてもミソ。

てきとーでありながら、かなり計算はされています。感覚で。



そして最後の工程は名前。

5年前にマナマズ用に作ったトップウォータープラグが

“クリークアサシン”だったので

“ストリームアサシン”にしようかと思いつつ・・・

子供の名前は生まれてから決めるという親がいるように

1尾釣ってから閃きで決めることにした。



さあ全ては整った

あとは琵琶湖水系に潜む大鯰に答えを問うのみ。



<真価が問われる>

湖北の流入河川から大阪湾へと流れ出る

日本一広大な水域である琵琶湖水系。

そこに潜む大鯰を狙うために水辺に立ち

今まさに、ほんの僅かな一点に自作ルアーを打ち込もうとしている。


今日は年に何度と訪れない狙い絞った絶好の機会。

それは決して産卵期ではなく、

自然の摂理に従って行動している大鯰が

キャスティングの射程距離内に入ってくるタイミング。


できるだけ気配を消して間合いを詰め

無闇にウェーディングはしない

そうすると必ずや遠ざかってしまう。

大鯰は岸へ捕食対象を追い詰めて喰おうとしているのだから・・・



それにしてもやけに水面が静かだ

強烈な捕食音があってもいいはずなのに。





暗がりの中、足下で自作ルアーの動きを再確認し、

顔を上げ、目線は20メートル先の一点に狙いを定めた。





<胸撃ちぬかれる>

ヒノキで作った自作のルアーは固定重心にも関わらず

飛距離や飛行姿勢に問題なく水面へ着水した。

ルアーが放物線を描いている最中に

ロッドを左手に持ち替えていたので

ベイトリールのスプールを左手の親指でサミングし

ロッドを素早くさばいてラインスラックを取ると同時に

右手はリールを巻き始めた。ゆっくりと。


大きな引き波は立てず

水面直下を弱々しく泳ぐ小魚を演出するルアーは

鯰族にとって狙いやすい獲物に映るはず。

無防備、逃げ場がない、そんな状態。


8フィートのベイトロッドには

はっきりとしたルアーのアクションが伝わらないが

きっと良い演技をしてくれているはず。


これくらいゆっくりとしたリトリーブスピードで

いいはず、なんだけど。





ドッバン!!





!?


喰った!?

これ魚!?



魚類の仕業とは思えないとんでもない水柱に

なにごとかと一瞬疑ったが、

そう思ったのも束の間、

水柱が上がったと同時にロッドは極限近くまで曲げられていた。


自作ルアーに自信はあったし、

そこに大鯰がいるだろうと狙いも定めていた。

目の前を通れば一発で喰うということも経験上わかっていた。


だけど、こんなことがあっていいのか

複雑な要因が絡みあった出来事なんだろうけど、

夜のしじまに炸裂した大きな水柱に

製作者であり釣人である私はシンプルに胸撃ちぬかれた。



<神秘>

大鯰が喰った場所はかなり浅く

鯰族特有のどっしりした引きではなく

凶暴なまでの暴れ方をする。

ロッドは叩かれドラグが滑ってラインを巻き取れない。

事前にドラグセッティングを怠っていたり

メインラインとリーダーのノットが甘かったら

あっさり切れているに違いない。

軽く10キロを超えている魚が暴れている。

これは静荷重のテストではなく実戦だ。


R801RXグラインダーが過去最高の曲がりを見せ

さらに叩かれているので、さすがに不安になったが、

それでもまだバットが曲がろうとして高負荷を吸収している。

単にバットが硬いロッドだと一発で破損かラインブレイクだ。


たったの15メートル先で喰わせた魚がすぐに寄らない

でも喰ってきた地点から先へは走らせない。

タックルセッティングにラインシステム、ノット、

どこかに不安を残していればこのやりとりはできず

絶対の自信を持って臨んでいる。

だが決して油断はしない

慎重かつ大胆に。


引きに耐えていた時間から

フォアグリップを持ちポンピングで岸まで寄せた時間が2分ほどか。

必要以上に弱らせたくないのでファイトタイムは短めだ。



琵琶湖の神秘を前に極度の緊張感から息が荒く

そこに笑顔やガッツポーズはない。

心底震える感動をしたときは奇妙なほど冷静な自分がいる。


魚体を水に浸けたままフックを外してやり

マグライトの光に浮かぶ金属光沢を帯びた鮮やかな紫に見惚れる。

撮影を済ませて頭を帰る方向へ向けてやると、

別れを惜しむ私の心を蹴飛ばすように勢いよく手を抜けていった。


この日の釣行はたったの1投で終えた。

それ以上やる必要もなく

偶然の一言では片付けられない出来事は、

狙っていたからこその出会い。

ドラマは木片をナイフで切り出したときから

始まっていたのかもしれない。




自作ルアーの名は“夜叉”


夢追い人は

ひとつの夢を手にし

また次の夢を追う。






<あとがき>

この1尾を皮切りに夜叉はとてつもない結果をもたらした。

全大鯰釣行で30分以内に結果を出し、

90センチを少し下回ったのが1尾のみ。

でもこれらの釣行を記事にする予定はありません。

いたずらに刺激をするだけなので控えます。あしからず。



と、これら結果に大鯰釣りで知り合った滋賀の釣友から

「で、いつくれるの??」と何度か催促があり、

ほぼ同セッティングの夜叉を出し惜しみしつつあげることに。

ちっ、これでスペアが無くなってしまった。

でもまあ夜叉は大鯰にも親友にも認められたようです。





ご覧頂きありがとうございました。





Thanks for Handmade lure advice

Mitsuki zaemon

Chu-i ga hitsuyo-da!


タグ :琵琶湖大鯰

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